中村由信氏のスナップフォトの決定的瞬間
伊吹島
瀬戸内海にある伊吹島(いぶきじま)は、観音寺港の西約10kmにある周囲5.4kmの小さな島です。古くからいわし漁に多くの人びとが従事し、イリコ(煮干いわし)の産地として有名です。
島には「出部屋
(でべや)」という習俗がありました。その始まりは400年前に遡ると云われ、1970年(昭和45年)まで続きました。
月経や出産は赤不浄と云われ、特に漁村では血を見ると不漁になると忌み嫌われました。そこで産婦は新生児と一緒に、夫も含め男子禁制の小屋で約1ヵ月共同生活をしていました。医療が発達していない時代の先人の知恵であり、産婦同士が助け合いながら暮らした合理的な制度とも云われています。出部屋に入った産婦は「出部屋友達」と称し、一生深い付き合いをすることになったと云います。
2006年に高松市観音寺市で開催された「伊吹島物語」では、緑川洋一氏(1915年〜2001年)と師事していた中村由信氏の作品が展示されました。
.男は漁に出るので、女の力は男まさり。麦一俵ぐらいは平気で持ちあげる。
.入院して出産近く、生衣を縫う妊婦。
分娩が終わってほっとする妊婦。
.生れると飛んできた姑が、子供の無事を祈る。
同じ時期に入院したものは、出部屋友達といって、一生親類なみのつき合いをする。
退院の日が近くなる。家には山ほどの仕事が待つ。
「私の組写真作法」より抜粋
歴然とした色分けは難しいが組写真には、連続写真(フォト・シークエンス)・連作(フィト・シリーズ)・写真物語(フォト・ストーリー)・写真随想(フォト・エッセイ)の形式がある。
写真物語(フォト・ストーリー)には時間を追う場合と、それに関係なく被写体のドラマチックな場面のみをピックアップする時がある。また混合した様な撮り方もある。物語性は常にドラマチックな感じではなく、淡い人間味・不安な感じ・前途洋々・ユーモラス・重圧感・寂しげな味わい等々、いろいろな場面で表現できる。
組写真の大半は何らかの意味でフォトルポルタージュの要素を持っており、軽い報道写真の撮り方とも言える。      

*JPS(日本写真家協会)がプロカメラマンの作品保存をし始めています。
モノクロネガは保存状態にもよりますが、30年も経つと変化が現れます。カールし始め、乳剤面はひび割れとなります。また需要があるほどネガの貸し出しにより、行方不明になっているものもあります。
伊吹島のネガは乳剤面がひび割れとなっており、作品集からスキャンしました。